青が散る


ゴールデンウィークは予想に反して仕事があまりできなかったので、在学時代に一度も手をつけることがなかった入学記念に贈呈された、僕が通っていた大学を一期生で卒業した作家が執筆した小説を読んでみることに。真っ只中にいる時は下らないと思うのだが、実際に大学を卒業して学生生活を終えると"青春"と言う言葉の響きが無性に恋しくなる。僕は高校時代・大学時代の大半を結局は惰性で過ごしてしまったから縁の薄かった青春ではあるが、卒業してからまだ一ヶ月ちょっとしか経ってないのに懐かしさを感じる部分がある。それにはやはり後悔の念もありつつ・・・。著者からの母校の新入生へのメッセージに「皆さんは10年後、20年後、更に時を経る毎に学生生活が如何に有難いものであったかを思い知ることになります」と書かれてあったが、今でさえそう感じるんだから何十年の年月が過ぎた頃には更にそう感じるんだろうなと思う。


この物語は創立当時ではあるがこの作家の母校である僕が通っていた大学がモデルになっているため情景を思い描きやすい点と、主人公が単に名前が同じと言うだけでなく性格も何となく自分に通ずる側面があるため世界観に深く浸ってしまった。まぁ、この主人公は4年間テニスに没頭していたのに対して、僕は振り返っても何も熱中してなかったなって違いとかはあるが。(苦笑)この小説は500ページ近くの厚さがあるため最後まで読むことができなかったが、今までここ数年推理小説以外の本はほとんど読まなかったので新鮮さもあった。ただ、やっぱり読書と言っても自分にとって楽しいのはカテゴリーで言うと小説だろうってのは更に深まったが。
ストーリーは著者の学生時代の四十数年前が舞台になっているため、喫茶店でのたむろや、家電でのやり取りなど全体を通して時代の差を感じるところはあるが、核となる部分はいつの時代も変わらないんだなぁと感じたり。


そして、この物語のある種の醍醐味は登場人物が誰一人として幸福な道を歩むことにはならないところ。この小説は著者の経験をベースにしたものではなく完全にフィクションとのことだが、終わり方もドラマでよくあるようなハッピーエンドではなく、学生生活やクラブを通して育んだ仲間とも卒業によってそれぞれが離れ離れに自分の道を進んでいくことになる。しかし、これが青春の本来の姿であり、人生というものの運命であるのだろうと思う。だから青春は甘酸っぱいみたいな表現になるんだろうし。自分の今までの学生生活を振り返って色々と想像することもあったけど、結局は綺麗事を言ったところで人生は孤独なもんなんだなと。そして成就することのない儚い願い。物語では"人間の駱駝"として表現されていたが、何の目的がある訳でもなく日々を無駄に過ごす若者達。夢や希望に満ち溢れた状態でこの小説を読むとあまり良い傾向にはならないだろうけど、今の自分の気分的に共感できる部分もあってとても良かった。ある意味今の自分の生き様は"人間の駱駝"である暗い喫茶店の地下にたむろするヤンキーの連中まんまかもしれんな。(苦笑)


にしても、今まではうちの大学の出身と言うと飛んで回ってどうのこうののあふぉ丸出しな芸人のおっさんしか思い浮かばなかったけど、この著者の作品に共感できたのは新たな発見だったかも。