十三号独房の問題 part3


最後の部分。


思考機械は監房へ所長らを連れて行き電灯をつけた。監房内は普段と変わらずベッドに横たわっている。まごうなく彼の姿である。ドアを開けるとそれはかつらで、布団の下には30フィートの太縄の束が、短剣、やすりが3つ、10フィートの電線、小型の強力な鋼鉄製プライヤー、柄つきハンマー、更にはピストルまで置いてあった。
更には思考機械がドアの下部の鉄枠を足で蹴ると、そのうち3本は外れて、残りの1本は2つに折れてしまった。
所長は抜け出せた方法を何度も聞くが、思考機械は"頭脳の働く者を拘禁などしておけるものではない"と自信を見せ、招待している晩餐会へ。


思考機械は刑務所から公正な方法で脱出できることをランサム博士らに認めてもらうとおもむろに話し始めた。
私の約束は身の回りの物以外は何一つ持たずに収監され、1週間以内に脱出するところにあった。チッザム刑務所は初めて目にすることころである。
収監されるときに要求したものは歯磨き粉、10ドル紙幣2枚、5ドル紙幣1枚、靴を磨いてもらうこと。これを拒絶されたところで他の手段を考えるだけで、計画の根本的なところに支障をきたす訳ではなかった。
監房内に利用できるものはないため一見役に立ちそうにないこれらの品を利用するほかないと思われた。しかしどんな無害なものでも頭脳の働く者の手に渡るとなると危険かするのだ。
最初の夜はどうしようもないのは承知していたのでおとなしく眠って次の日を待つことにした。私の計画が外部の人間の力を頼んでいたと考えるのかもしれないが、望みさえすればいつでも好きな人間と連絡を取るくらい簡単なことだったのだ。


翌朝は6時の朝食時に看守から昼食は12時、夕食は18時と聞いた。その間は誰にも邪魔されずに作業ができるのだ。食後は監房の窓から庭を偵察した。そして窓から脱出しても石塀を登るのが困難だと知った。私の目的は刑務所そのものから逃亡することにあった。私の力を持ってすれば石塀を越えるのも不可能ではないが、かなりの時間を要するのでこの方面は断念することにした。
しかし、この偵察で石塀の外に河が流れており、その間に子供の遊び場がある見当がついた。看守に確認したが、これは考慮に入れる価値のあるもので、この刑務所に人目に触れずに接近するにはこの方面のほかになく、重大な事実である。


しかし、外部の状況でもっと注意を引いたのはアーク灯に繋がる電線が監房の窓からあまり離れていないところを走っていることだ。アーク灯を消す必要が起こった時に利用できる。
私はまず建物からの脱出を考えた。で、監房までの道筋を思い起こした。外界に通じる7つのドアを首尾良く通過するのは並大抵のことではなく、頑丈な花崗岩に穴を空けるのも大変な仕事である。この経路も諦めて、別の手段を考えなければならない。


思案していると一匹のネズミが足元を走り過ぎた。それを見て新方法が閃いた。監房内はいつも5,6匹のネズミが走り回っていて、目玉が闇の中に光っているが、1匹たりともドアの下の隙間からは出入りしていない。と言うことは何処かに通り路があるはずである。試しに脅かすと1匹残らず姿を消した。通路があるのは間違いない。
私はすぐにそれを発見した。古井排水管で、新しいものに変わってから廃棄されたまま残っている。ネズミが出入りしているのはこの口からだ。排水管は刑務所の外に通じているはずだから河の付近に違いない。しっかりしたパイプに穴が開いているとは考えにくいため、ネズミが入り込むのは向こうの橋と思って良いだろう。


昼食時に看守は本人はそれとも知らず重要なことを2つ話した。1つは7年前に建物の排水設備を換えたこと。それで、パイプは旧設備の一部がそのまま残っていると分かった。もう1つは河まで300フィート程の距離しかないこと。パイプは河に向けて傾斜して走っているのだろうが、問題は先端が河の中か、地上に出ているかである。
私は監房内のネズミを捕まえてそれを確かめた。看守らはネズミ退治に夢中だと思っていただろうが、1ダースは捕まえたが、ぬれているのは1匹もいなかった。つまり、体を水にくぐらずに排水管に潜り込むことができるのだ。しかも、そのネズミは野ネズミなのだから外からやってくるに違いない。体を濡らさずに来ると言うことはパイプの向こうは地上に抜けているのだ。これは立派に利用価値のあることで、計画はこの方面から進めることに決めた。そこで、まず所長の注意をここから逸らすことを考えた。


私が最初にやったのはランサム博士に連絡を取ろうと骨折っているように思い込ませることだった。で、ワイシャツから布片を引き裂いて、ランサム博士に送る通信文を書いて、5ドル紙幣を巻きつけて、窓から投げた。監視が拾えば所長に渡ると承知してやった。その暗号は逆から読むと"これは私の脱出手段に非ず"と、暗号を解けばそのまま皮肉になる寸法だ。書いた道具は靴紐の先端の金具をペン先に、靴墨を水で溶かしたものをインキにした。


私の最初の計画は早く監房の捜査をさせてしまうことにあった。2,3回捜査して何も出てこなかったらそれ以上の捜査は嫌になって諦めるもの。そこに狙いがあった。切り取ったのは最初の2枚だけと思っていたらしいが、囚人服に着替える際に同じシャツから取った布片を丸めて口のなかに含んでいたんだ。ちゃんとしたワイシャツは胸のところが三重の厚さになっていて、私はその内の布地を抜き取った。
こういった他に考える材料をあてがって注意を遠ざけ、それから脱走計画を考えることにした。
排水管は塀外の空き地に通じ、そこでは子供が大勢遊んでいる。ネズミはその辺りから監房内に出入りしている。これだけの材料が揃っているのだから、外部と連絡が取れないことはあるまい。しかし、連絡には丈夫で長い糸が必要だった。それで靴下の上の部分を利用した。しっかりしたレース糸でできていて、4分の1マイルくらいの長さの丈夫な糸ができた。それから隠しておいたリンネル生地を出してハッチ君に通信文をしたためた。面白い新聞種でありハッチ君が協力してくれることに疑いはない。通信文には10ドル紙幣を結びつけた。人目を引くに効果的な方法だろう。


リンネル生地には"この布片を発見された方は、デイリーアメリカン新聞記者のハッチンソン・ハッチ氏お届けをこう。同氏は届け出人に10ドルの謝礼を提供するだろう"と書いた。
次の工作は通信文を子供の目に触れるように無事に塀外まで送り出すことだ。方法は2つ考えられるが、私は最善な方を選んだ。1匹ネズミを捕まえて、その片足にリンネル生地と紙幣を結びつけ、もう片方の足にレース糸を結んで排水管に追い込んだ。臆病な動物だから向こうに出たらリンネル生地と紙幣を急いでかじり落とすと考えた。
しかし、失敗の懸念がないこともなく、気がかりにもなった。レース糸の端を握っていたが、途中でかじり切るかもしれないし、他のネズミがかじり切ることもあるかもしれない。あるいは外に出ても人目に触れぬところでかじるかもしれない。考えれば考えるほど心配が湧いてくる。


しかし、ネズミはどんどん走っており、糸は数フィートしか残らなかった。どうやら外に出たと思われる。後の問題はハッチ君の手に渡るかである。
僕は待っているよりなかった。失敗を考えて第2の手段を考えた。看守に誘いを掛けて、外界との間の7つのドアのうち2つぶんしか鍵を持っていないことを知った。次に所長の気をもませるために神経戦術に出た。靴のかかとから鉄片をを取って窓の鉄枠を切り取る真似をした。しっかりしているので安心していたが、それはその時だけのことだった。
つまりこれは計画のうちだった。これだけのことを済ますと後は結果を待つだけである。成功か失敗か一切私には分からなかった。その夜は一晩中眠らなかった。通信文がハッチ君に渡れば必ず糸を引いて合図を送るに違いないからだ。予想通り、3時頃に排水管の向こうで糸が引かれた。


話はハッチ氏に代わった。野球をやっていた子供が手紙を見つけて持ってきてくれた。これは素晴らしい特殊だと思い、約束通り子供に10ドルあげて、いくつかの絹糸と太い双子糸、細径の鉄枠の鉄線を用意して通信文を拾った場所に案内してもらった。
捜査は日が暮れてから取りかかった。懐中電灯の光を頼りに探すためパイプの端が雑草に覆われているのを発見するにはずいぶん時間がかかった。そこにレース糸が覗いているのを見つけたので引っ張ると向こうからも引っ張り返された。
それから糸の先端に絹糸を結びつけて合図するとそれを引き込み始めた。途中で切れないかとドキドキしていた。絹糸の端には双子糸を結びつけ、そのまた先には鉄線を繋いだ。こうして排水管を通路としてネズミがかじろうとしてもかじれない丈夫な連絡線を作り上げたのだ。


再び思考機械が話した。これだけの仕事を気付かれずにやってのけた。
それから次の実験は排水管を通話に使ってみようとしたが、これはあまり上手くいかずよく聞こえなかった。他の者の耳に入っては困るので大声を出す訳にはいかず、やっとの思いで私の言葉をハッチ君に伝えたが、硝酸が欲しいと伝えるのに随分苦労した。
"酸"と言う言葉を繰り返し言うと上の監房から突然悲鳴が響いて、思わずドキッとした。慌てて寝たふりをすると、所長の足音が聞こえた。あの時監房に入られていたらこの計画は露顕していただろうが、運良く通り過ぎてくれた。実験ではここが一番危険な時だった。


この即製の連絡線のおかげで欲しい物を手に入れたり、パイプの中に突っ込んで隠したり思いのままにできるようになった。所長がパイプに気付いて指を差し込んでも私より指が太いため鉄線まで触れることはないし、用心のためにパイプの口にネズミの死骸を置いた。狙いは排水管に気がついてもあの死骸で気力を挫くことであった。
ハッチ君に要求するものをその場で用意してもらうことはできず、調達してもらうには翌夜まで待たねばならない。その晩は実験に10ドル紙幣を両替してもらった。その間は他の計画を進歩させておいた。


この計画を成功させるには前庭の監視が私が窓際に顔を見せても疑念を持たぬよう慣らす必要があった。そのためにリンネル片を何度も落とした。同時に私が外部の人間と連絡を取ろうとしているように神経戦で悩ます一石二鳥だった。私は何時間も窓際で外の様子を眺め、時には監視に話しかけた。そのうちに、刑務所には電気技師が常置していないため、電気施設に故障が起こると配電会社から修理工を呼ぶのだと聞いた。
これで僕の計画は本決まり。最後の夕方、日が暮れかかると同時に送電線を鉄線に硝酸を浸したもので焼き切った。アーク灯りは光が消えて、断線を修理するために配電会社の職工を呼ぶことになろう。ハッチ君は堂々と構内に入りこむことができる。


脱走前にハッチ君と最後の打ち合わせを細部に済ませておく必要があった。4日目の夜、所長が監房から帰って30分程後に排水管を通じて話し合った。しかし、僕の言葉がハッチ君にはなかなか聞きとれぬようで、"酸、酸"と繰り返した。それに私の寸法である8号サイズの帽子を用意してくれと言った。偶然にもそれが4階の囚人を自白させる機縁になったらしいが。排水管は階上にも続いているようだが、真上が空であったため一層飛んで4階の囚人が聞きつけたらしい。
窓の鉄枠を硝酸で焼き切るのは簡単な仕事で、勝さんは小瓶に入れて届けてもらった。焼き切るのには時間がかかったが根気よく続け、酸の流出は歯磨き粉で防いだ。看守が鉄枠を調べる時はいつも上を握っていたため、焼き切るのは下の部分にして、ほんの剃刀の刃くらいを残して繋いでおいた。
ベッドから現れた仰々しいものはハッチ君の発案で特種を一層派手にして驚かそうとしてやったことで、速達便はハッチ君の万年筆を送ってもらって書いたもので外から投函してもらった。


刑務所から出て改めて正門から入ったのは、硝酸で送電線を焼き切ったため、夕方になって電流が通ってもアーク灯はつかなかった。故障の原因が発見されるまでは相当時間がかかるものと思ったため、監視が所長室に報告に行くのを見て窓から暗くなった庭に忍び出た。出た後は張り出しに足をかけたまま鉄枠を戻した。
そのうちに配電会社の連中が来たが、期待通りハッチ君も混じっていた。合図するとハッチ君は帽子・ジャンパー、作業服を渡した。所長が様子を見に来たが、私は目と鼻の先で悠々と着替えていたのだ。
その後、ハッチ君は職工に早変わりした私に自動車から修理道具を運ぶのを手伝えと言った。2人は一緒に門から出たが、門衛は今入ったばかりの職工だと思って怪しみもせずに許可してくれた。外で再び福総を改めて新聞記者として堂々と面会したという訳なのだ。


フィールディング氏からはハッチ君が配電会社の連中と一緒に来れた理由を聞いたが、ハッチ君の父は配電会社の支配人だという。もとの排水設備を残していなかった仮定の質問には他にも2つの方法を残していたと言った。
まぁ、この短編は面白かったけど、幸運が続いたところによる無理矢理感があるように思うな。実際そんなに上手くいくものかどうか。それにしてもこれから小説のレビューする時はいくつかをざっとまとめてやった方がいいな。流れ通りに書くととんどでもないことになってるし、3回に分けると自分でも訳が分からんくなってくる^^;。