人を呪わば


今日はまた洋書短編推理小説の方からウィルキー・コリンズという人が書いた"人を呪わば"を。コリンズと言えばいつか草野球チームの監督みたいなのやってた人を想像する。(ぇ)この人はイギリスの文豪とのこと。
この小説は手紙のやりとりのみで構成されている模様。


ある年の7月4日、刑事課のフランシス・シークストン主任警部は同部のトマス・バルマー部長刑事に手紙を送った。
重大な事件が起こって経験豊富なバルマー刑事の助力を願わなければならなくなった。現在、捜査に当たっている盗難事件は、手紙を持参する少年に引き継いで頂きたい。事件の情報を与え、今後の事件の責任や手柄はその青年が受けるべきだというのである。
そして、その新任のマシュウ・シャーピンという人物は高貴な方面からの後援により特権を得ていて、これまで弁護士事務所の初期を勤めていたが、自分のことをうぬぼれている。彼は主人弁護士の依頼者の事件から個人情報を嗅ぎ出し、急所を握っているが、首に追い込めば危険な人物になるため、刑事課に入るのは口止め料みたいなものだろう。万一、彼が解決に成功すれば、醜悪な鼻先を刑事課に突っ込んでくることになるだろう。


7月5日、シャーピン氏はシークストン主任警部に、バルマー部長刑事から指示を受けて今後の行動について報告を提出する命令を受けた。
対してシークストン警部よりシャーピン氏に、バルマー刑事から受けた指図を文書にして送ること、今後どういう方法であるかを知らせること、必要のあるごとに事件の進歩を報告することの3つを報告することを義務とした。


7月6日、シャーピンはシークストン警部に最初の報告をした。ソーホー区ラザフォード街13番地にヤットマン氏経営の一軒の文房具店があ。主人は結婚しているが子供はおらず、夫妻の他の住居人は。2階の表側の部屋を借りているジェイと称する独身者、屋根裏部屋に住む店員、奥の台所に住む雑役の女中の3人である。他に、週に1度程度、午前中だけ女中の手伝いとして日雇女が通ってくる。これらが屋内に自由に出入りできる人物である。
ヤットマン氏は商売も繁盛し一本立ちできるようになったが、投機によって財産を増やそうとして失敗し元の貧乏人になり、200ポンドの金しか残らなかった。
ヤットマン氏は売文業者のジェイ氏から200ポンドを預金している株式組織の銀行の事業不振の噂を聞き預金を引き出した。その金は封筒に入れ、帰るとブリキ製の金箱に南京錠をかけて上着のポケットに入れた。夜は服と一緒にベッドの傍の椅子の上に置いた。その夜はずっと2階におり、訪問客もなかった。


翌朝、夫妻が目を覚ますと箱がなくなっていた。嫌疑は居住人の女中、店員、ジェイ氏にかかった。女中と店員は話を聞いていたため金の隠し場所を推論する機会はあったが、ジェイ氏は出かけていたため知らないはずである。しかし、ヤットマン氏は寝室の鍵をかけずに寝る習慣があり、熟睡する夫婦であるために物色することは容易である。ここまでがバルマー刑事から聞いた情況であると言う。バルマー刑事は、女中と店員に対し密かな調査を行い2人に嫌疑を晴らし、嫌疑はジェイ氏に限定されることとなった。ジェイ氏はふしだらな青年で信用を増す事実は発見されておらず、彼が犯人か無実かを調べると。シャーピンはジェイ氏の隣の貸し部屋を借りて、壁に孔を空けて行動を見張り、外出する時は尾行すると言うのだ。


7月7日、シャーピンはシークストン警部から返事が来ないことを自分の行動を認めてくれたからと勘違いし、更に報告を続ける。更に、シャーピンの計画に加わってくれるヤットマン夫人の言葉に踊らされ惚れてしまう。
その日、ジェイ氏は普段は在宅しないが、終日家に閉じこもっていた。だらだらと朝を過ごしていたが、一人の小さな男の子が原稿を待っていると訪ねてきた。ジェイ氏は原稿ができると男の子に渡した。
30分程するとジェイ氏は出かけ、居酒屋で羊肉料理を注文した。外出している間、ジェイ氏の部屋はヤットマン夫人が捜査していると言う。この店で向かいのテーブルにいた怪しげな青年がジェイ氏の席に来た。シャーピンはこの男を共犯者と考える。


7時に居酒屋で会った男が話していた"ジャック"がジェイ氏の部屋に現われた。もうひとりの表現を出したためにシャーピンは第3の悪党が関係していると考える。ジェイ氏とジャックが交わしたリージェント公園のアヴニュー・ロードで会う約束を、盗んだ銀行券を現金に換えるところだと思い込み、手下の2人を尾行するために2人の応援を送るように求めた。


7月8日、リージェント公園のアヴニュー・ロードに部下を待たせ、シャーピンはジェイ氏を尾行した。するともう一人の人物が美しい女性だったことにシャーピンは酷く落胆する。3人は落ち合って、木立の中を歩いていたが引き返してきた。そして、ジャックがジェイ氏に「明日の10時半に馬車で来てくれ」と言うのを聞いた。3人が別れた後、シャーピンはジェイ氏を、部下は手下を尾行した。ジェイ氏はストランドにある新聞社、たばこ屋、居酒屋に寄って家に戻った。


翌朝、2人の部下がジャックはリージェント公園の近く別荘風住宅の前で女性と別れ、一人になると主として商店経営者が住んでいる郊外住宅地の道を行き、辺りを見回してそうした家の一軒に入ったと報告があった。
一方、ジェイ氏は身なりを整え10時10分に馬車で外出した。シャーピン達3人は尾行し、アヴニュー・ロード口へ着いた。2人が乗り込むとジェイ氏の馬車は引き返して来て、シャーピン達は気付かれた。シャーピンが焦って部下に憤慨しているいる間に、ジェイ氏達の馬車は教会の門前に止まっていた。シャーピンは自分の失態を認めたくないために部下を連れて教会に入ったが、3人は会衆席に腰を下ろしていた。更には牧師が役僧を従えて姿を現し、結婚式のくだりの聖書を読み始めた。ジャックが花婿で、ジェイ氏が父親、もう一人の女性が花嫁だった。だが、シャーピンは相手の馬車を尾行すると強がる。部下からは「尾行するのは金を盗んだ男なのか、女房を盗んだ男なのか」と馬鹿にされる。


シャーピン達は結婚式が終わると3人の馬車の後を追い、南西鉄道の終着駅に着き、新婚夫婦はリチモンド行きの切符を買った。ジェイ氏は二人と別れる時に食事の約束をし、家に帰って汚い姿に戻った。
シャーピンは自分の推理に誤りがないことを強調したうえで、本庁からの指令を煽いだ。最後にシャーピンは3人を教会から駅まで尾行したことについて、彼らが犯人と信じ職務上の問題として、また個人的な投機に、駆け落ち夫婦が人目を忍ぶ場所を突き止め、その情報を商品として売りつけるためと弁解し、本庁から行動を是認されないならば売り物の情報を持って、リージェント公園近くの別荘風住宅に行くと負け惜しみをした。


7月9日、シークストン警部はバルマー刑事に自分は用事で町から離れられないからとバルマー刑事に事件を改めてやり直すよう頼んだ。その時にこのシャーピンが書いた報告と称する手紙を同封した。その譫言を理解することができれば、シークストン警部にもバルマー刑事にもシャーピンは筋を残して他は犯人を追っていたことが分かるものであった。


7月10日、バルマー刑事はシークストン警部に手紙を落手したことを報告し、賢者は愚者から学ぶべきものという諺通り、くどくどしい報告を読み終えると事件が結末まで見通せたと言う。
バルマー刑事がヤットマン氏の家に行くと、シャーピンは自分の仕事があると出て行った。バルマー刑事はこれを好機に、ヤットマン氏と内々で話すことにし、ヤットマン氏に泥棒が分かったことを報告した。彼は犯人を告げる前に心構えを促し、ヤットマン氏は怯えた表情になった。そして、奥さんが犯人だと告げられると、ヤットマン氏は酷く興奮して、飛び上がり、やがて泣きだした。


バルマー刑事はシャーピンのばかばかしい報告の中に奥さんの行動も書かれていることに着目し、奥さんがシャーピンのうぬぼれにつけ込み、見当違いの人に嫌疑をけしかけることによって自分の罪が露見することを防ごうとしたことによって、本人は気付かない結論を引き出していると言った。
奥さんが金を盗んで何に使ったかの理由について、ヤットマン氏は1年間の服飾店の勘定書は領収書の綴じ込みにあると反論するが、バルマー刑事は服飾店のずるい習慣を指摘し、既婚の女性なら申し出をすれば2通りの勘定書を作らせることができる。1通は主人が見て払うの勘定書で、もう1通は内々に余分な品を全てつけて都合のいい時に分割してこっそり払うものであり、分割払いの場合は大抵家計費から捻出される。夫の財政状態が変わったのを知った奥さんはにっちもさっちもいかなくなり、秘密の勘定を金箱から払ったと言う。


まだヤットマン氏は反発するため、領収書を綴じ込みから外して奥さんの取引服飾店に行くよう促した。バルマー刑事は紛失した銀行券の番号を記した表を持って、内々に会いたいと店のマダムに申し入れ、帳簿を見せてもらった。ヤットマン夫人の名が載っているページに目を通せば一つとしてバルマー刑事の推理に間違いがないことが証明された。
内々の帳簿の方には内証の勘定が記入してあって、支払済みになっており、日付は金箱が紛失した翌日になっていた。内証の勘定は3年間に渡るもので、分割金は一度も払い込まれておらず、最後の行の下に督促の旨が書かれていた。マダムは督促状と同時に法律的な手続きを取ると言い添えたと言う。勘定書を見ると、ヤットマン氏の財政が傾いた後も前の年と変わらず、他のことでは節約していても、衣装となると節約どころではなかったようである。
その後は形式的に現金出納簿を調べると、銀行券で支払われ、金額や番号は表と正確に一致した。ヤットマン氏はその後、子供のようにわめき立てていたが、事件は解決となった。


一方、シャーピンは別荘風住宅で用件を切り出すと暴行の事実を目撃した証人が二人いて、それがものになると100ポンドになると上機嫌で、事件はジェイ氏が犯人だと思い込んだままヤットマン夫人に犯人を聞きに行く。その後の様子を想像するのは容易である。
7月12日、最後にシークストン警部はシャーピンに職業に適するほど利口でないため刑事課の一員として勤務することを断る解雇通知を送り、新規採用するならヤットマン夫人の方が適任あることを報告した。


まぁ、これの感想としてはあまりにばかげた行動を貫くところに面白さがあったかな。馬車とかさすが19世紀の作品って感じだし。まぁ、これに関しては推理を楽しむと言うより、人間関係の面で面白さがある作品かな。
これを読んで昔は自分をへりくだって"小生"との呼び方があったことを初めて知った。