夜が殺意を運ぶ


今回のは西村京太郎サスペンスの十津川警部シリーズから徳間文庫出版作品の中でも短編集「十津川警部 愛憎の街東京」の一節に当たるストーリー。五編あるうちの一編目の事件。最初読み始めた時は他の長編小説と同じように章ごとに分かれてるのだと思ったけど、あまりに一章ごとのページ間隔が長いなと思っていたらまさか短編集だったとはw。まぁ、パッと見で長編か短編か見分けにくいんだよな。とりあえず内容を。


成城学園近くの路上で赤のベンツが猫をはねるところを十津川警部が目撃した。ベンツの女は車から降りたが猫を置き去りにして行ってしまった。十津川は猫を自宅の庭に埋めた。
翌日の昼休みに十津川は亀井とコーヒーを飲みながら前夜の出来事を話していた。すると亀井が"そんな人に動物を飼う資格はないですね"と吐き捨てるとそれと重なるようにテレビから同じ言葉が聞こえてきた。テレビの中で自称猫好きの女が動物を捨てる飼い主のことを話していた。何とそれが例のベンツの女だったのだ。


そんな中、十津川の元に多摩川の河川敷で玉木みどりという女が殺されているのが発見されたと報告された。十津川たちが駆けつけると、初動捜査班の清水は死亡推定時刻は昨夜の10時半から11時頃で、身につけたものは剥がされ錘をつけて沈められていたと判明した。遺体に残った傷から猫を飼っていると考えた十津川は飼い主がいなくなり、猫がないていれば名乗り出るように促した。当たりはなかなか見つからなかったが、そのうち飼い主と猫の両方が突然いなくなったと連絡が入った。玉木みどりは気まぐれに旅行に出掛けるらしいが、不思議だと思っていたらしい。


一方、玉木みどりはモデルクラブのママをやっており、クラブの従業員からの調査によると玉木みどりには石黒という資産家のスポンサーがついていることが分かった。十津川はスポンサーの石黒興業の石黒を訪ねると、石黒は事件のあった5月19日を挟んで18日から21日まで弘前に行っていてアリバイがあるという。
また、調査を進めると石黒と関わりの深かった人間としてベンツの女である林田ひろこが浮上した。そして玉木みどりとも関わりがあると判明し、以前玉木みどりと口げんかしているところを目撃されている。十津川たちは林田ひろこを訪ねて、ベンツの証言などを話したが、林田ひろこは玉木みどりを知らないし多摩川にも行ってないと全面否定した。しかし林田ひろこにアリバイはない。


一見アリバイのある石黒を怪しいと思う十津川と亀井は石黒のアリバイで、19日に午後3時から約1時間高校時代の友人と喫茶店で過ごしてから、翌日の代議士との昼食までの空白時間を利用できないから考えることにした。車では到底不可能である。
列車の乗継ルートでは弘前16時23分発の奥羽本線普通で青森に17時17分着。17時45分発の"はつかり28号"で盛岡に20時3分着。盛岡20時13分の東北新幹線、最終"やまびこ82号"には乗れるが上野に着くのは23時34分になり多摩川に午後10時半頃に着くのは無理である。午後10時頃に上野に着くには弘前14時57分発の"いなほ1号"に乗らなければならず、15時前には弘前を出なければならない。


その後、亀井たちは再び林田ひろこを訪ねたが彼女は既におらず、亀井たちが部屋を探ると玉木みどりが買っていた高価な宝石が見つかった。しかし、林田ひろこは奥多摩の山の中で例のベンツに排気ガスを吹き込んで亡くなっているのが見つかった。その中から髪の毛が見つかり、玉木みどりの毛と一致したため車で死体が運ばれた可能性が浮かぶ。
そんな中で、ガソリンスタンドの店員から林田ひろこの目撃情報と、林田ひろこが多摩川沿いの川魚料理旅館を一ヶ月間借りている情報が入った。


十津川はこれをリレー殺人と位置づけ、石黒は19日の午後10時半頃に仙台辺りに玉木みどりを呼びだして殺害し、林田ひろこに仙台に来るように言って、その途中で猫をはねたが急いでいたため猫を助けなかった。石黒は林田ひろこのために玉木みどりを殺したと言って同情させて死体を持ち帰らせ、石黒は仙台から弘前に戻ったという。これなら石黒は仙台6時56分の新幹線で盛岡で8時13分発の"はつかり1号"に乗り換えて青森に10時42分着。10時49分の奥羽本線普通に乗ると11時41分に弘前に着いて代議士との昼食には間に合うことになる。林田ひろこも経堂の自宅を午後10時に出て、死体発見直前の翌日の午後1時までに仙台を往復することは可能となる。身元を隠すため林田ひろこは身に付けているものを剥がし、錘を乗せたがすぐに浮かんできて石黒の計画通りだったのだ。
また、林田ひろこの車から発見された睡眠薬入りのコーヒー缶はすり替えられたものだと判明した。
清水刑事は証言を求めて仙台へ向かうこととなる。


ここでこのストーリーは終わりに。感想は、京やんらしい列車のダイヤを絡ませたトリックには面白さがあったけど、やはり短編と言うこともあって最後の方は急ぎ足で解決に向かいすぎたところがあるかな。言ってしまえば4,5話構成の金田一に比べて前後編構成のコナンは推理自体は簡素なのと同じような感じ。仙台で殺されたのも憶測によるもので証拠は明かされず、最後も仙台に向かうところで終わってるし。まぁ、短編は長編よりストーリーを的確に把握しやすいメリットはあるけど、簡潔にまとめられるだけ推理小説だけで取って言えば若干面白さに欠けてしまうかな。