レントン館盗難事件


今回は海外版の古い世界短編傑作集シリーズの方を。その中から"アーサー・モリスン"とか言う人が書いたレントン館盗難事件。作者はあのコナン・ドイルと同時代に活躍した人らしく、その代表作として"マーティン・ヒューイット"を主人公とする作品とのこと。
まぁ、短編シリーズ全般において複雑なものではないけど、このストーリーは館内で宝石を盗んだ犯人を捜し出すという浅い内容に仕上がっている。


ストランド街に近いある横町に貧弱な事務所があった。寂れた階段を上るとヒューイット探偵事務所である。ある朝、ロイドという若い男が探偵事務所に駆け込んできた。部屋に入ると小太りで丸顔の男、ヒューイットがいた。
ロイドは秘書を勤めているレントン館のジェイムズ卿から用件として盗難事件の依頼をした。事件は邸で客の宝石が3度も盗まれたと言うのだ。ジェイムズ卿が停車場まで迎えに来ると言うので、他に用件のあるロイドとは別行動でヒューイットは汽車でツワイフォードへ出掛けた。


馬車の中でジェイムズ卿は事件の説明をした。
一件目は11ヶ月ほど前に晩餐会を開いた時に招いたヒース大佐夫妻の真珠を散りばめた腕輪が盗まれた。晩餐の翌昼、男達は狩猟に出かけ、卿の妹と娘は大佐夫人を誘ってわらび採りに出かけたが、支度をしながら大佐夫人は宝石の自慢をしていた。しかし、外出する時にテーブルに置きっぱなしのままだった。しかも、ドアには鍵を掛けていたが窓は開いていたと言う。しばらくして帰ってくると腕輪が紛失していた。警官に調べてもらうと腕輪のあった辺りに使うはずのない燃えさしのマッチが残っていた。暗くなってからマッチの光で金目のものを探したと思われた。しかし、窓から地上に降りる道具はなく、梯子も使われた形跡はない。


二件目はその4ヶ月ほど後に呼んだアーミテイジ夫人が娘と知人を訪問に村に出かけている間に小さなブローチが紛失したもの。純金製ではあるが安物で、出がけに針刺しに引っ掛けておいたと言う。部屋は大佐夫人とは別で、テーブルにはもっと高価な物があったがその安物のブローチだけが盗まれた。この時もドアには鍵がかかっていた。窓は引き綱が切れていたので、ブラシを支えに1フィート程開けていたと言う。しかも、帰って来た時に同じ状態だったと言う。更に窓からの出入りは容易だが、窓の下の撞球室に卿がいた。事件の関連としてテーブルに燃えさしのマッチがあったと言う。安物であったため質屋へ入質されていたが、行方は分からなかった。


三件目は昨日に卿の妻の妹が遊びに来た時に腕輪の部屋に通した。この人もブローチを持っており、安物ではなく宝石を散りばめたものである。午後、着替えの途中で卿の娘の部屋へ行った。娘の部屋は同じ廊下にあるため留守は3,4分である。だが、戻るとブローチがなくなっていた。今度は窓は閉めていたが、ドアは開け放していたが、娘の部屋のドアも開いていたため誰かが近付けば音が聞こえるはずである。そしてまたもテーブルにマッチの燃えさしがあった。しかも白昼なのにである。


ヒューイットは卿の妻の妹のカサノヴァ夫人の部屋から調べた。マッチは火を点けてすぐ消したものだった。また娘の部屋からマッチを擦る音が聞こえることが分かった。アーミテイジ夫人の部屋も変わったところはなかった。
ジェイムズ卿自身の行動については先の二度は狩猟に出かけており、三度目は農場にいたと言う。続いて邸の外部が調査された。レントン館は次々と増築したため、散漫な感じの建築で、3階になってるのは少しで大部分は2階建である。ヒューイットは馬車を洗っている馬丁と話をした。その後、ヒューイットは卿にカサノヴァ夫人の部屋の真下の部屋について尋ね、1階は卿の居間で、2階はロイドの書斎と分かった。階下の居間に案内される途中に卿の姪に出会った。


ヒューイットは卿の居間は簡単に見ただけだったが、ロイドの書斎は丁寧に調べた。丁度類は刺繍細工や舞扇など婦人風の趣味で、窓際には鸚鵡を入れた籠がかけてあり、机には花瓶が二つもあった。それを見るとヒューイットは考え込んでしまった。
そんな時にロイドが用件から戻ってきた。するとヒューイットは卿に犯人の目星がついたと伝え、ロイドを警察へ遣いに出すことになった。ヒューイットはロイドと打ち合わせをして玄関まで送った。ヒューイットは見送った後晩餐までロイドの部屋を借りた。


やがてロイドが県感を連れて帰ってくると、ヒューイットは例の鳥籠を持って玄関に行った。ロイドは鳥籠を見て顔色を変えた。ヒューイットはロイドを犯人だと名指した。ロイドが体を屈めると上着からしおれた花が落ちた。ヒューイットは鸚鵡が共犯だと言った。鸚鵡がロイドの相棒であり手先でもあった。仕事は皆鸚鵡を使ってやったことだったのだ。
ヒューイットは手掛かりについて、マッチはテーブルを照らすためではないと見た。実験と空のマッチ箱によりマッチは外から持ち込まれたに違いないが、他の部屋で一度点けてすぐ消してから部屋に持ち込む手間のかかることをしている。燃えさしにしたのは何かの弾みで火が燃えるのを恐れたためである。つまり、マッチは本来の用途ではなく、木の裂片としてだけだった。


それを前提にマッチを見ると小さなくぼみが鋭い道具で挟んだように両面に2つづつ向かい合って付いていた。それが鳥のくちばしの跡だった。梯子も使わず、窓の隙間を入れたのは鳥だからだが、盗まれるのはいつも光ったのが一個だけなのも鳥だからである。マッチをくわえたのは、仕込んでおいたためで、忍び込んで盗み出すまで静かにさせる工夫として簡単で効果的な方法だった。馬丁との会話で飼っている動物のことを知り、邸内のマッチが同一なことを聞き出した。ロイドが飼う鸚鵡の詳しいことも分かり、ロイドの部屋で爪楊枝を差し出して噛んだ跡がマッチと符合したため確信を得たと言う。


一件目と二件目はマッチをくわえさせて鸚鵡を窓から入れて宝石を盗ませ、三件目は室内に隠れさせていてドアから逃げたと言う。鸚鵡に芸当ができるか試すためにヒューイットはロイドを遣いに出し、鸚鵡と親密になることを企てた。初めは慣れなかったがそのうちに芸をやるようになり、作業の後に部屋を探すと訓練に使ったまがい物の宝石が見つかった。証拠はこれで十分である。この事件は人間の手では絶対不可能でありながら、人間の知恵が働いているのが特徴であった。


この感想としては邪道と言っては暴言になるけど、最終的に鸚鵡が手を下したのだって言われると何かがっかりした気分になるな。まぁ、確かにそういうのもありと言えばありだけど、何かトリックがあってそれを見つけ出すってのが推理もののミソだと思ってるからちょっと残念だった。まぁ、短編の中でも短めってことはあったからだろうけど内容的には大分浅めだったかな。あまり頭を使わずに軽い気分で読むには丁度いいと思うけど。