裏切りの特急サンダーバード


久し振りに京やんミステリーの小説を最後まで読んだのでそのレビューを簡潔に書こうかと。僕の場合は店先で立ち読みさせてもらっているため誰かが途中で購入すると読めなくなってしまうことに。当初は大学の最寄り駅前の商業ビルに入っていた古本屋で読んでいて、その後西宮ガーデンズブックファーストに置かれているのを見つけてライブに行った時に読んだりしていたがあまり行く機会は多くなく、近日に梅田の紀伊国屋で見かけたため最後まで読破することができた。その意味では最後まで読めたのは幸運だと思わねば。
ちなみにこの作品が出版されたのは単行本・文庫版によって多少前後するが01年〜03年頃の模様。


ストーリーはスリの名人の原口がサンダーバードの車内でスリを実行するところから始まる。ある時、スリに成功した原口がその金で和倉温泉で温泉を満喫していると年配の男が声を掛けてきた。毎月一定の金額を支給する代わりにおとなしくして警察に捕まらないで欲しいと言うのだ。同じようにこの事件の首謀者である大明寺一郎は上司を殴ってサンダーバードの運転手をクビになった小森重男、ジムを辞めさせられたボクサー崩れの角田英男・進の兄弟、誤って銃の免許を剥奪された加藤明、人生に嫌気がさして自殺を考えていた若い女性の沢木めぐみと落ちこぼれメンバーの駒集めを行った。大明寺は何を考えているのか。


ある日曜日のサンダーバード15号は温泉地へ向かう行楽客で満席だった。このサンダーバードの運転室と車掌室が占拠され乗っ取られたのだ。犯人グループはJR西日本に終点の和倉温泉に着くまでに政府の保証を得て11億円の身代金を要求する。和倉温泉に着くまではノンストップで運行されることになった。和倉温泉から先はのと鉄道があるが電化されていないためサンダーバードが乗り入れることはできない。
身代金はヘリから学校のグラウンドに落とすように指示される。警察は犯人が使用していると思われるトラックを追っていたが、塗装により何台も用意されていて惑わされてまかれてしまう。


身代金が引き渡されるとサンダーバードは緊急停車した。犯人は乗客に5分後に爆発する爆弾を起動させたから死に物狂いで逃げろと警告された。乗客が逃げたとほぼ同時に9両編成の車両は炎に包まれた。これに乗っていた休暇中の北条早苗刑事は犯人達がボートで逃げるのを確認した。ボートは新潟沖に沈められているのが見つかり、犯人達はボートで新潟まで行き、上越新幹線で東京に潜り込んだと断定された。
捜査本部では犯行の動機が議論された。大明寺は資産家であり、奪った身代金のうち3億円をヘリからばら撒かせるなど金への執着はないため、刺激を求めて犯行を楽しんでいるとされた。


ことが収まるまで潜伏するだろうとの考えが大勢だったが、十津川は犯人達がそれぞれ1億円づつの分け前を手に入れたと考えてそれをすぐ使うだろうと考えた。大金が動く事例をマークしたがそれは失敗だった。
一方、その間犯人グループは大明寺の別荘に集まっていた。彼はミスで免許を奪われてしまった一流の整形師である秋山医師に自分を含むメンバーに整形させ、新しく既に亡くなって身寄りのない者の名前を与えた。手術が終わると秋山医師は改めて勉強するため渡米し、犯行グループは1週間程新しい顔と名前に慣れるために潜伏してから分け前を持ってそれぞれ分かれていった。


ある深夜、南軽井沢の別荘で火事があった。大きな邸宅を呑み込む程の勢いで燃えている。この別荘の所有者はDMGエンタープライズと言う会社だが事実上は大明寺個人の所要物だと言う。焼け跡からは多量のメスや注射器が見つかった。これによって犯人グループは整形したと断定された。焼け跡からは人骨も見つかったが、大明寺が自分に似た背格好の人物を自殺に見せかけて焼いたとされた。
その後、あるブランドバッグの店から500万円のバッグと更に高い商品を求めている客がいると通報があり、その者は警察に同行させられ原口と指紋が一致したため逮捕された。しかし、他の犯人達は前歴がないため手掛かりがない。


犯人たちの動きを窺っていた十津川は新聞の三行広告に注目した。同窓生からD先生にもう一度同窓会を開いて欲しいとの要望で、一人は重病人だと言う。D先生は大明寺のことで、重病人とは分け前を使い果たしてしまったもののことだろうと推測された。
数日後、事件は起きた。出迎えに回っていた幼稚園バスがニセの警官にバスに爆弾が仕掛けられたと誘導され、バスからは離れた後に睡眠薬入りの飲み物を手渡され意識を失っている間に幼児8人が誘拐された。犯人グループは警察に捕まっている原口に1人当たり1億円の身代金を運ばせるように要求した。1人づつ解放すると言う。


1億円も出せない家庭に配慮し、犯人達は金に執着していることを考えた十津川は幼児の両親にいくらまで出せるか尋ね4000万円で合意した。犯人グループは一瞬躊躇したが受け入れた。要求通りに1人づつの身代金が運ばれ8人全員が解放された。しかし当然原口は帰ってこなかった。解放された子供たちの証言から監禁されていた別荘は神奈川県の海辺だと断定された。
その後、額の撃ち抜かれた原口の遺体が見つかった。別荘の場所も分かり中を捜索していると原口・小森・角田兄弟・加藤・沢木の6人それぞれの位牌が見つかった。そして、小森・角田兄弟・沢木の遺体が次々に奥多摩周辺で見つかった。


これにより十津川は射撃の名手の加藤に5人を射殺させ、加藤のみ自分が始末したと考えた。分け前と新しい顔を与えたのにまた泣きついてきた連中に愛想を尽かしたのだろう。しかし加藤の遺体は見つからなかった。やがてある焼却炉が調べられそこに残っていたライフルと骨が加藤のものであると思われることが分かった。だが、大明寺は何処に逃げたのか。誘拐された幼児の両親は戻ってきた身代金を懸賞金に掛けた。顔を変えているため確実な情報に乏しかったが、十津川は西表島からの少女の手紙に注目した。母親が10年以上働いているホテルの経営者が代わり、突然母親が解雇されたと言う。その理由はどうも誘拐事件を大々的に扱っている週刊誌を読んでいたかららしい。更に社長はほとんど顔を見せないのだ。


この小さな情報を頼りに十津川と亀井は西表島に急いだ。まずは弁護士として来訪し、社長直筆の解雇理由書を書くように指図する。それを民宿に持ち帰って懸命な作業で指紋照合が行われた。その結果、大明寺とこの社長の指紋が一致した。翌日、十津川と亀井はフロントを強引に押し切り社長室に突入してこの大明寺を逮捕し事件は解決した。
加藤の遺体を焼却したのは5人を射殺した射撃の名手がライフルを持って潜伏していると世間の目がそちらの恐怖に向き、この事件への関心が薄らぐことを見越してのことだったのだ。


このようなストーリーであるが、これを読んでの感想はあとがきにも書かれていたように小説上のフィクションの物語だからこそ楽しめる内容になっているかなと。犯罪は勿論悪事ではあるが、何も接点のない世の中に嫌気が差している各々が集まって大きなことを計画し、読んでいくにつれてこれからどんなことが起こるのだろうとワクワクするスリル感。スリを仕事にしている原口以外は才能を持っていながら何らかのミスにより人生を棒に振っており、紅一点の沢木めぐみは新たな才能に目覚めることになる。様々な事件が現実に起こっているためあまり好ましくないニュアンスかもしれないが、読み終えてスッとしたような気分。フィクションだからこそあっていいことに自分の日々のストレスを重ね合わせる。こういうストレス発散方法も一つかもしれないな。