特急「雷鳥」蘇る殺意


こっちを先に書くとするか。
今回も京やんのミステリーサスペンスを。そしてまたしても雷鳥シリーズ。現時点で読み終えた4冊のうち3冊が雷鳥シリーズだと言うのだからどれだけ好きなのよとw。ちなみに京やん本人も舞台となる鉄道車両の中で雷鳥は特にお気に入りとのことで。趣味があいますなぁ。(なにゅ)この他に雷鳥シリーズは80年代に創刊された「雷鳥9号殺人事件」や、部分的に取り上げられている93年頃の「怒りの北陸本線」等があるようだが、どちらもかなり前の作品になるため新品で店頭に置かれていることはほとんどなし。古本屋で後者は見かけたことあるが。
そしてこの作品に登場するお座敷グリーン車は85年から89年までの4年間だけ実際に存在していて、それが後にスーパー雷鳥のラウンジカーへの移行なども解説で書かれていて知ることができる。


それでは内容の方に。十津川警部の部下の西本刑事は最近武蔵小金井に引っ越した。家から警視庁に通勤する途中に庭に鉄道車両を展示してある邸宅があった。興味を持った西本が中に入ると案内板が立っており、この車両は85年から89年の4年間だけ国鉄に存在した特急雷鳥号に併結されたお座敷グリーン車で、自由に見学して構わないが89年2月25日にこのお座敷グリーン車に乗った乗客が居れば話を聞かせてほしい、お礼として10万払うと書いてあるのだ。西本は住人の高柳修に事情を聞こうとするのだが、その日の乗客でないのなら何も話さないと口を閉ざす。
西本は警視庁に戻るとこの日のお座敷グリーン車で何があったのか当時の新聞で調べてみた。すると何とお座敷グリーン車を繋いだ雷鳥が終点の和倉温泉に着く直前に木谷由紀と言う20代後半のOLが青酸中毒死していることが判明した。


その後、もう一度西本は高柳に事情を聞きに行ったが管轄が石川県警で警視庁の刑事は捜査できないため話をしてくれない。そんな時に森山信行と言う男が高柳の所にやってきた。森山は例のお座敷グリーン車に乗ってはいたが眠ってしまって記憶にないと言う。翌日の夜に森山が自宅に近くで帰宅中に刺殺されているのが発見された。
森山の家を捜索すると真新しい鉄道の本が多数出てきた。森山は10万欲しさにお座敷グリーン車に乗っていたと嘘の証言をしたとされた。
一方、十津川の妻の直子は流行りのブログに凝っていた。直子は鉄道の旅が好きなためその感想を書いていたのだが、ある時このお座敷グリーン車での事件の話になりスワンと言うニックネームの人から警察でさえまだ持っていない情報を提供してくれた。スワンとは何者なのか。


今から16年前の89年に起きたこの事件は既に時効が成立していた。十津川は石川県警の酒井刑事に当時のことを聞くことにした。すると何とこの発表には誤りがあったのだ。発表では死体が発見されたのは列車が和倉温泉に着く直前となっていたが、実際には死体が発見されたのは和倉温泉に着いた後に車掌が見回りに来た時だったので乗客は降りてしまった後で全員から証言が取れなかったのである。聴取できたのはお座敷グリーン車に乗っていた被害者を除く17人の乗客のうち10人だった。このため捜査が後手に回ってしまい迷宮入りしてしまったのだ。
この事件には石川県警の何人かの刑事が担当していたが、やがて捜査に行き詰まり関心が薄くなってしまった。そんな中本間と言う刑事だけが熱心にこの事件を調べ続けていた。それが5年前に突然警察を辞めてしまったと言うのである。


十津川は本間の行方を探した。本間はその後決まった仕事には着いていないと思われる。すると東京にあるクラブで用心棒として働いていたことが判明した。しかし本間は事件のことは何も話していなかったようである。
ある日、一人の中年男が刺殺された。身元は元石川県警の本間と言う刑事だった。このことを石川県警の酒井刑事に報告すると本間はこの事件は180度考え方を変えないと解決しないと言っていたと言う。本間は警察を辞めてからもこの事件を独自に捜査していたらしい。
次に十津川は当時の車掌であった田村に会いに行った。今はJRを退職して天王寺で食堂をやっている。田村は乗客が皆降りた後に車内を見て回っていると寝込んでいる客がいて、最初は酔って寝ていると思ったがやがて死んでいることに気付いたと証言した。数日後、田村は旅に出ると言ったまま消息を断って輪島付近の海岸で溺死しているのが発見された。その後捜査はなかなか進まなかった。


ある時、十津川の下に一本の電話が入った。役に立つかは分からないが情報を持っていると言う。その男によれば出版社で原稿のチェックの仕事をやっていた時に「レール日本」と言う雑誌の懸賞に小柳慶と名乗る本名高柳修が応募してきた。その内容はある特急列車のグリーン車を舞台にした小説で、旅路に向かう客たちは和気藹々と楽しんでいたのだが、酒に酔った一人の女性が車内で暴れ出したために雰囲気が一変してしまった。初めは他の乗客たちはなだめていたのだが、それが悲劇のヒロインを演じているのだと知り、他の乗客たちはその女性の我儘に我慢できなくなり寄ってたかって撲殺してしまうと言うものである。これは何と89年2月25日にお座敷グリーン車で起きた事件とそっくりなのだ。とするとこの事件も全員が犯人と言う可能性もあるのだ。しかし当の高柳修は例のお座敷グリーンには載っていないと主張する。それでは何故こんな類似した小説が投稿されたのか。


十津川たちは当時の乗客リストの中から6年前に自殺している大阪に住んでいた佐々木進に会いに行った。すると佐々木の部屋には高柳と写っている写真が置いてあった。住んでいる場所は違うが当時は同じ大学生で共に旅を楽しんでいたのだろう。佐々木の両親によると本間は佐々木の下にも訪問していた。
高柳にこのことを話すと旅行友達であることが分かった。つまりあの小説は佐々木から聞いた話によって書かれたのである。十津川を訪ねたチェックしていた人はこの作品を気に入ったのだが、最終審査である小堺泰典は入賞させなかった。この小堺はIT産業で儲けて雑誌の出版を行っていたが、それは趣味程度のもので「レール日本」は2年で廃刊になってしまったのだ。


相変わらずお座敷グリーン車を展示している高柳の下に一人の男が訪問してきた。井口雅夫と言う私立探偵の男も依頼が少なく金に困っていたと森山と同じく嘘を言って10万を受け取った。
そんな頃、十津川班では捜査会議で問題点を洗い出していた。課題なのは小説のように寄ってたかって殴りかかることはできるが、寄ってたかって青酸カリを飲ませることはできず、そのうちに誰かが飽きるはずだと考えるのである。
すると部下の北条早苗刑事がその例を考えた。被害妄想の強い人で常に青酸カリを持って死んでやると叫んで周りを困らせるのが居るようだ。最初は必死で咎めるが、そのうち相手にするのがバカらしくなって罵声を浴びせるようになると言うことらしい。


小堺が出版社を潰したのは政治的な野心があったからだった。現在は千葉県議会の副議長をしている小堺にとってはこの事件の真相が分かるとその身が命取りになりかねない。そのために怪しいと思われる人物の口を封じているのだろうと判断した。森山は殺されたのに対し、井口は海外に渡航した記録が残っているため井口は高柳を監視するために小堺が雇ったのだろう。しかしこれでは証拠がない。
そこで十津川は高柳に協力してもらうことにした。高柳は佐々木の仇を討つためにお座敷グリーン車をJRから払い下げてもらったのだが、十津川に依頼されて真相が分かったから黙っててほしかったら2000万用意しろ、さむなくば週刊誌にこのネタを売ると書いた手紙を送った。


翌日、1台の車が高柳を乗せていった。十津川達は気付かれないように覆面パトーカーでその後ろを尾行した。南房総の山間に着くと高柳達は降り、もう1台の車が止まっていた。そこに乗っていたのは小堺であった。高柳が金を受け取ろうとすると小堺の車を運転してきた男が高柳に拳銃を向けた。この時に周りは投光器の灯りで明るくなって小堺の周りを囲みこんだ。運転手の男は海外に行っているはずの井口だった。
小堺は事件の中心的な人物だったのである。はやし立てて青酸カリを飲ませた形で乗客全員で口裏を合わせたのだ。一方の本間元刑事が警察を辞めてからも熱心にこの事件を調べていたのは乗客の中から資産家を強請るつもりだったからである。


内容的にはこんな感じだったと思うけど、全員が犯人って言うシチュエーションはアガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」を彷彿させるような感じかな。車掌を含めて全員が共犯ってのがこのストーリーのミソ。こういうケースは比較的珍しいし。ちなみに作品中では89年を16年前と表しているため05年と言う設定になっているようで。
後はここに出ているスワンは以前北陸本線で走っていた特急である「白鳥」からもじったらしい。結局、スワンの正体は明かされないままだったが、結果としては高柳の可能性が高いと十津川は思っていたとのこと。
それにしてもこういう過去と現代を結ぶ推理ってのも結構面白いもんだな。