湖西線12×4の謎


先日読み終えたいつもの京やんミステリーから今度は角川文庫出版の「湖西線12×4の謎」。長編小説であるには変わらないが、ページ数にして230ページ程と今まで読んだ十津川作品長編よりは100ページ程少なめ。今回はいつもの雷鳥シリーズや北陸本線ではないように見えるが、作品の中には湖西線経由で北陸方面へ向かう雷鳥がキーワードになっていたり。できれば「怒りの北陸本線」や「雷鳥9号殺人事件」も読みたいのだが10年以上前の作品を置いてる書店は少なく・・・。買うのなら取り寄せてもらえるけど立ち読みさせてもらってるんだからやむを得んわな。この「湖西線12×4の謎」は文庫本としては一昨年の発行のため多くの店で置かれているから読みやすかった。でも雷鳥シリーズに拘るのもそろそろ無理があるかな^^;。


では内容の方を。十津川警部の部下の日下刑事は親戚の黒田真紀に呼び出されて喫茶店で落ち合った。話によると元警視庁刑事の父、黒田信行が突然旅に出たまま失踪したと言うのだ。外出後何の連絡がないまま3日が過ぎ去ったらしい。二人は手掛かりを求めて黒田のマンションに行ってみることにした。マンションに着くと黒田の部屋の鍵は開いていた。真紀が前日に来た時は鍵を締めて帰ったと言う。不審に思った日下が一人で室内に入ると寝室に刃物で刺殺された男の死体が転がっていた。しかしそれは黒田信行ではなかった。身許が分かるものは何も残されていない。この男は一体誰なのか。その後、十津川達も加わって本格的に捜査が行われたが男の身許は分からなかった。更には黒田の足取りも不明なままなのである。


後日、黒田の部屋の捜索が行われその中で唯一見つかった手掛かりらしきものは絵画である。そこには"KOKOKU 12×4"と書かれていた。これの意味するものは何か。KOKOKUは琵琶湖のある滋賀県湖国、更にはその風景から北部だと断定された。十津川と亀井は滋賀県へと向かった。すると一つの発見があった。湖西線を通る登りの特急雷鳥17号は近江今津駅を12時12分に到着し発車する。黒田の失踪した日は12月12日なのだ。12×4とは恐らくこれを意味するのだろう。黒田は現在私立探偵であるため、雷鳥が到着もしくは発車する時に車内や駅であったことを調べるよう依頼されたのではないか。しかし依然として黒田の行方は分からないままである。黒田の足取り、黒田の部屋に転がっていた男の身許は分からないまま年が越してしまった。


琵琶湖の北部の高島には名産のニブロブナの漁をする久助じいさんがいた。4月になって暖かくなってきたためその年の漁を始めることにした。ある日沈めていた籠を引き揚げた時コートが引っ掛かってきた。更に引っ張ると土左衛門の手までがかかっている。今津署によると免許証から身許は黒田信行だと分かった。連絡を受けた十津川と日下は近江今津へ向かった。遺体は4ヶ月間沈んでいたため異様に膨らんでいる。黒田は何のために琵琶湖に来たのか。手掛かりは何もない。
すると、突然黒田の部屋に転がっていた男の遺族と名乗る若い女が遺体を引き取りに現れた。名前は三浦亜希で、その男は親戚だと言う。しかし、調べてみるとその男が働いていたと証言する会社にその男の名前が登録されたことはないと言う。亜希は何のために嘘をついたのか。


その後、調べるうちに三浦亜希は三浦元社長の親族だと分かった。三浦元社長は大きな三浦重工業の社長だったが、多額の使途不明金などが次々と発覚し会社を追われていたのである。十津川達はその三浦俊太郎と会い、その後京都にいる三浦の妻の両親に会った。それによると三浦は退職後ゆっくりと過ごすために琵琶湖にやって来たが、家が完成するまでは京都にいたと言う。その時に三浦は一人で暮らし、妻は実家に戻っていたのだが、当初は年が明けてから引っ越す予定だったのが、突然12月12日に出発することになったようである。また、三浦元社長の居場所を探す男が何度となく現れたと言う。捜査本部は三浦重工業は三浦俊太郎をまつり上げて全ての責任を元社長に押し付けようとする動きがあると考えた。三浦夫妻はそれから逃れるために身を隠すことにしたのだろう。また、黒田信行は三浦重工業の幹部に依頼されて三浦俊太郎を探すように依頼されたのではないか。


十津川たちは三浦夫妻がいる近江舞子のホテルに向かった。琵琶湖のほとりに立てた家はボヤになって修理中だと言う。十津川は三浦夫妻の行方を捜している者がいることを伝えた。だが、三浦夫妻は頑なに否定した。そのうちにロビーが騒がしくなった。湖岸で遺体が見つかったようである。その遺体の身許はある暴力団関係者だった。
その後、三上刑事部長から失踪していた三浦亜希が帰って来たと連絡があった。十津川たちは東京に戻って亜希に会うことにした。亜希によると嘘をついたのは親戚の三浦元社長から黒田によくしてもらったことがあるためそう言うように指示されたとのことである。一方、捜査を進めると三浦重工業は新幹部が発表され、三浦元社長に責任を追及しようとする動きがあることが分かった。また、黒田は三浦重工業の幹部に三浦夫妻を探すよう依頼されたが、悪いのは自分に依頼した側だと気付き発見したことを報告しなかったため殺害されたのだと推理された。


やがて三浦重工業と暴力団に繋がりがあることが分かりその暴力団から数人が琵琶湖に向けて発ったことが判明した。更には三浦重工業の幹部から二人程が後から向かうことも分かった。三浦夫妻の身が危ういことを感知した十津川と亀井は琵琶湖に向かった。近江舞子のホテルに尋ねると三浦夫妻は朝方に出掛けたまま帰ってきてないと言う。十津川たちは二手に分かれて琵琶湖の周りを探したが三浦夫妻見つからなかった。三浦夫妻は既に連れ去られてしまった可能性が高まった。仕方なく三浦夫妻の家に戻ると久助じいさんと三浦亜希がいた。十津川は幹部たちは心中に見せかけて殺害すろと予測し、久助じいさんにそのスポットらしい場所を尋ねると竹生島ではないかと答える。十津川はもし久助じいさんの知り合いに船を借りに来る者があったら連絡してくれるよう頼んで、幹部たちを迎えうちに向かう。暴力団の連中は幹部たちと合流して支持を受けてから犯行に及ぶだろうと考えたからである。


幹部たちの尾行には北条早苗刑事と三田村刑事が担当した。幹部たちは京都で降りてホテルに着いた。しかし、この二人はおとりで主役は別行動していたのだ。主役は今から東京を発つと言う。少なくとも2時間半の時間がある。十津川は急いで琵琶湖に戻り、船を借りたと連絡のあった2つの船着き場を張ることにした。片方は日下と西本がおおっぴらに待ち構えて遠ざけて、十津川と亀井が潜む船着き場におびき寄せて捕まえようとする作戦である。やがて日下からそれらしき人物を目撃したと連絡が入った。もうすぐ十津川たちの下に現れるだろう。
すると一人の女性が突然現れた。三浦亜希と思われた。しかしそれを咎めることはできない。いつ犯人が現れるか分からないからである。そのうちに男たちが現れその女性を殴って船の中へ連れ込もうとした。十津川たちはそのタイミングに捕まえようとしたが、久助じいさんは船のエンジンは抜かれていて動かないと言う。井の中の蛙状態になった犯人グループを捕まえて事件は解決した。


十津川の推理ではこの事件では三浦夫妻は12月12日の12時12分に到着する上りの雷鳥17号で京都から近江今津に着いて久助じいさんと合流し近江舞子のホテルへ向かった。それを知った幹部は黒田に依頼し、黒田は三浦夫妻を発見し尾行していたがやがて三浦夫妻は被害者であることに気付き発見報告をしなかった。そのことに怒った幹部は繋がりのある暴力団の1人に黒田を殺害させた。その暴力団が湖岸で見つかった遺体である。この暴力団の者は三浦夫妻に殺害されたのかは最後まで不明であった。三浦重工業は経営力のない三浦俊太郎をわざと社長にして責任を押し付けて辞任に追い込み、隠居後も全ての責任を三浦元社長になすりつけて心中に見せかけて殺害してしまおうと考えていたようである。また、黒田の部屋に遺体が置かれていたのは黒田が殺人を犯して逃亡しているように見せかけるためであった。


この作品の感想としては何と言うのか大企業の裏の顔みたいな部分が鮮明に描かれているなみたいな感じが。不祥事とかの弁解でも従業員が勝手にとか言ってるのを目にするが、こういう重役連中ってわしゃ知らんみたいにしてホント嫌らしいわw。責任を被せるなんて言語道断な行為だし。だから企業って概念は嫌いなんだよな。まぁ、そんな偏見を持ってるからダメなので、小さいところでも頑張ってるところは頑張ってるのだが。
後は作品に出てくるヨシ原ってのがどんなものなのか気になる。ニブロブナは鮒寿司の原料になるものらしいし、登場人物以外は実在するものを用いてるんだろうけど、実際に出向いたのだろうと思われる詳しいストーリーになってる。湖西は北陸方面に行く時にサンダーバードで通過するぐらいで近江今津の辺りで下車したことないから情景がなかなか思い浮かばないけど、湖北の方はまだまだ昭和の風情を残した地域も残ってるようだし行ってみたいわ。ここに出てくる久助じいさんもそうだが、昔の生活スタイルって温かみがあってゆったりした感じだし。不便だけど昔の人の知恵って凄いなと思うこともある。住むには不自由だけどそういう光景は何かホッとするんだよな。